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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
牢屋に送ることになるかも知れん。まあ、被害がなくてすんだんだから、お引き取り下さい」
愛嬌のない横柄な巡査は、そういうと、般若の五郎に、また手錠をはめ、後からこづきまわしながら、引き立てて行ってしまった。
暮れるのに遅い春の日も、ようやく、黄昏れて来た。
九段坂上にある「筑紫館」は、博多出身の者が経営していて、九州から上京する人たちの定宿になっているようだった。和洋折衷の三階建である。
二階の突きあたりの六畳が、金五郎と安五郎との部屋に割りあてられた。
一足遅れて着いた金五郎は、宿の褞袍に着かえながら、その視線は西方の一角に釘づけされていた。
まだ明かるい西空に、くっきりと富士山が浮き出ている。そこだけくり抜かれたような空の形が、洒落れた額縁のようだ。真赤な夕焼雲が美しい。
金五郎は、しんとした気持になった。
右手に視線をめぐらすと、すぐ近くに、靖国神社の屋根と、大鳥居とが見える。境内一杯の桜はもう青々とした葉桜で、数本の彼岸桜だけが、その中に、ふさふさとした八重の花びらを点綴している。
女中が、入って来た。
「お客様、お風呂をお召しになられませんか」