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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「実は、わたしも、侠客が好きなんです。講談本を読んでいて、清水の次郎長や、国定忠治のような親分になりたいなあ、……って、考えたことはあります」
「とんでもねえ。兄ちゃん、そりゃあ、考えちがいだ」
「どうしてです?」
「次郎長や、忠治、ってえのは、いけねえや。侠客の屑さ。喧嘩を売り物にする奴は駄目だ。ほんとうのいい親分は、喧嘩をしねえな。だから、大前田英五郎というのは、えれえよ」
「大前田英五郎というのは、知りませんね」
「そうよ。斬った張ったはやらねえから、講談や浪花節にはならねえんだ。つまらねえ侠客というのは、みんな、派手なものさ」
そのときは、なにげなく聞き逃していた。むしろ、馬鹿くさいことのようにさえ思っていた。親分になどなる気は毛頭なかったからである。それで、般若の五郎が湯を出た後、
(あの変なバクチ打ち奴、つまらんことをいいやがる。からかってやったら、本気にしやがった。誰が親分なんかになるものか。彫青なんて、馬鹿にするな。龍になり、雲と風とに乗って、大空を翔けまわるんじゃ)
と、心中で叫んだのであった。
ところが、その抵抗にもかかわらず、運命の強力な軛にはさまれ、人情の谷に落ちこんで、いつか、その親分のようなものになってしまった。