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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
チン、チン、ポー、と、電車は動きだす。それは歩くよりは早いけれども、疾走しているとは義理にもいえない。実にのろのろしている。総罷業のため、専門の運転手や車掌は居らず、電気局の事務員や、技手、応援の青年団などが、臨時で、代りを勤めていることを知った。
「昨日は、青山で、追突したそうです。乗客が七人も、怪我したといいます」
「笄坂じゃあ、坂落しをやったらしいよ」
「水道橋でも、脱線したそうな」
「危いなあ」
寿司詰の客が、不安そうに、そんな話をしている。不馴れのために、方々で、事故が続出している様子だった。
洋服を着た、縁なし眼鏡の中年紳士が、切符切りをしている。新米車掌らしい。
「いくらですか」
と、金五郎は訊ねた。
「正規の運賃は、七銭ですが、争議中は、二銭お引きすることになって居ります」
金五郎に切符を渡した臨時車掌は、外を見て、急にあわてだした。停留場が近くなったのに、はっきり知らないらしい。
「次は、……次は、……えエと、……?……次は……」
と、せきこみながら、何度もいっていたが、とうとう、ポケットから、地図帖を取りだした。せかせかと、頁を繰る。
すると、客の誰かが呶鳴った。