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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
顔が熱く火照り、目まで真ッ赤になっている。下唇を強く噛み、眉を曇らせているのは、胸中のなにかの苦悶と闘っているらしい。
布袋和尚のような原田雲井は、近眼鏡の奥から、細い眼で、眼前の青年の苦渋のありさまを、じっと見ていたが、コクッと、首の骨が鳴るほど、ひとつ、大きく、うなずいた。(わかった)という顔つきである。
「どうやら、雨は止んだらしいな」
天井を見あげて、そういうと、バッチョ笠を脱いだ。ちぢれた半白の頭髪が、鬘でも被っているようである。原田は坐りなおした。
真剣な顔になって、厳かに、
「勝則君」
「はあ」
「あんた、女が出来たとじゃな?」
返事が出来ずに、勝則は、また、うつむいた。そして、意を決したように、半纏の裏につけたポケットに、手をさしこむと、一通の封書を取りだした。それを、無言で、原田の前の机に置いた。
「もし、お留守だったらと思うて、この手紙、書いて来ましたのですが、……」
「拝見」
原田は、封を切って目読した。
外の雨も小降りになった模様である。天井から落ちる雫も間遠になった。しかし、ときどき、机の上、原田の頭、バッチョ笠、勝則の肩、手紙のうえなどに、瓦を剥がされた屋根裏の赤土と、天井の煤との混合した赤黒い汁がたれる。