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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
先に上った豆八は、爪先き立ちして、電燈のスイッチをひねった。
金五郎が入って、さしむかいになると、声をひそめて、
「旦那、びっくりしなさんな」
「馬鹿に、おどかすなあ」
「これ」懐から、油紙に包んだ長方形の品を取りだして、「或る人から、旦那に送って来たもんでござすが、誰からと思わっしゃるか?」
「そんなこた、わからんな」
「昔、昔、昔の、女の人ですよ」
「ふウン……?」
「お京さんです」
「ほう」
「びっくりしましたばい。旦那も、びっくりしたか知れんが、わたしゃ、たまげてしもうた。心臓がでんぐりがえる気持がしましたよ。指折ってみたら、あれから、二十五年、お京さんが若松を出てから、もう、四分の一世紀も経っちょる。わたしが旦那との連絡係りになっちゃ居ったが、いつの間にか、こげん年月が経ってしもうた。なんの便りもないし、若松を出るときゃ、大層、病気で弱っとったけん、可哀そうに、てっきり、死んだもんと定めとりました。これが来たとき、幽霊が、あの世から郵便を寄越したのかと、正直、わたしゃ、ぶるぶる、ふるえましたばい。でも、正真正銘のお京さんからでした。……旦那、どうぞ、ゆっくり、ごらん下さい。