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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
……お父さんは、そんなことはないけんど、乞食みたいに、一票にガツガツすることだけは止めといてね」
マンの舌鋒に抗しかねて、仕方なさそうに、金五郎は、ただ、苦笑するばかりだった。
(お京の手紙から八つ当りかも知れん)
と、気色が悪い。薄氷のうえに立った心地である。
「原田雲井さんだけは、今度はぜひ当選させたい」
マンは、ぽつんと、いった。
金五郎と勝則とは、つれだって、玄関を出た。父は、「聯合組」、子は「玉井組」の、どちらも半纏姿。背丈は似たような五尺四五寸だが、ならぶと、金五郎の方が肥っていて、どっしりとしている。野球、柔道、剣道などをやった勝則は、骨組はがっちりしているけれども、肉づきが浅い。
路をへだてた二階家の入口に、「松本重雄」という表札が出ている。
金五郎は、表から、呶鳴るように、
「もう、みんな、仕事に出たかな?」
と、声をかけた。
「早ように、出ました」
と、松本の女房が、暗い奥の方から、答えた。
松本重雄は玉井組の大ボーシンになって、仕事の全体を統轄している。家には、独身仲仕を十四五人置き、飯代部屋を兼ねていた。裏の方には、家族持ちのいる長屋がある。