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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
広間では、もはや、どんちゃん騒ぎである。三味に太鼓までまじって、喧噪で割れそうだ。金五郎とコヨの立っている中廊下を、酒を運ぶ仲居、芸者、酔っぱらい客などが、しきりに往来する。
二人は離れ座敷の方に行った。曲りくねった橋廊下を渡った。
竹林に、風が騒ぎ、どこかの泉水に、水の落ちている音がする。
「一番、奥の部屋です」
コヨに教えられて、足音を忍ばせた。息子の逢いびきの場所をうかがう後めたさが、瞬時、金五郎の胸をかすめた。人の秘密を盗み見る卑しさが、口中をざらつかせる。
(止めようか)
と、ふと、思った。
しかし、コヨの「様子が変だ」という言葉が、やはり気がかりだった。思い当る節がないでもない。先夜、投網打ちに行ったとき、息子に、光丸に許婚があるという話をした。その許婚と、来春、結婚、仲介は友田喜造、そのことも告げた。勝則はこのことを知らなかったらしく、はっとした拍子に、櫓を外した。そのとき以後、心境に、動揺と変化とが起ったことは疑いない。金五郎は、深くは追求せず、また、圧迫も加えず、息子自身の反省と、自主的な行動とを待っていたわけであった。今、そのあらわれを見ようとしているのである。