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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
鼻をつまんで、突っ立ち、息子が小便をする音を聞いた。笑いだしたい衝動をおさえるのに、一苦労した。
(おれはおどけ芝居の名人じゃ)
人間の重大な秘密が、説明しがたい滑稽の表情を呈することは、毎々、経験したが、雪隠詰になったのははじめてだ。
(こうなったら、序じゃ)
脱糞することにした。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿、……」
小便をしながら、呟いている息子のさびしげな声が聞えた。
大便所は清潔で、正面に小さい牀が作ってあり、銀の一輪ざしに、温室咲きらしい百合の花がさしてあった。うす暗い電燈の光のなかに、白い花びらが清楚に光っている。金五郎はしんとなるような気持がした。
(いつか、勝則が、彫青を入れるなら、やっぱり龍を彫って、その肢に百合の花を握らせる、なんて、いうとったことがあるが、……)
風呂の中でのことを思いだした。そして、そのときは気づかなかったのに、息子がいった百合の花というのは、光丸のことを考えてのことであったろうか、と、霹靂のように、金五郎は、今、厠のなかで悟ったのである。
(おれの菊の花も、マンのことを考えたからじゃったが、……)
排泄しながら、不思議な感傷に浸った。