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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

この道は暗い。二間幅ほどの道をはさんで、両側に、どちらも、高い花崗石の崖と、煉瓦塀とが聳えている。右は、安養寺、左は、明治建築の古風な尖塔を持つ筑豊鉱業組合事務所。寺の方には、夜目にも黒くそそり立つ一本の銀杏と、墓石と、鐘楼とが見える。

(今はお伽噺の本をよろこぶ十二歳の末子も、いつか、青春の日が来て、また、美しい女の子が好きになるのじゃろうか?)

そして、先刻、「夕立」の舞台で見た光丸が、いつか、「猫婆さん」のところで逢った芸者であったことを考えながら、暗い坂道の中ほどまで来たとき、

「ちょいと、玉井のごりょんや」

と呼びとめられた。

ふりかえると、三人の男が、すばやく、マンを取りかこんだ。

「なんぞ、わたしに御用で?」

「おう、用事がのうて、どげして呼ぶか。あんたに、ぜひ、話しておきたいことがあるんじゃよ」

「承りましょう」

「お前の倅の勝則にな、やたらに、女子に手をつけること、止めさせちくれ」

「勝則はそんことする子じゃありません」

「証拠があってもか」

「どんな証拠?」

「人の奥さんになる女子に、子を孕ましちょる、ちゅうが、……」

「馬鹿なこと、いいなさい。もし、それがほんととしても、勝則は、きっと、責任を取るでしょうよ」