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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
手が足りないので、深く詮索もせず、四五人、臨時に雇い入れたのであるが、そのときに、敵の廻し者がまぎれこんだにちがいない。「作やん」とだけ呼ばれていた、四十恰好の、背に岩見重太郎の彫青をほどこした小柄な男――その男が怪しいと思われた。
「新公、消えそうじゃぞ」
必死に手伝っていた金五郎が、親友を元気づけるように、弾んだ語調で、声をかけた。
「うん、ありがたい。これくらいで消えてくれりゃあ、……」
ところが、意外なことが起った。舞台の火事はおさまりかけたのに、劇場の裏手から、新しい火の手が上って来たのである。さらに、混乱は倍加された。
「放火しやがったか」
新之助の顔は歪み、鬼のようだった。
半鐘が、鳴りだした。
消防組が、くりだして来た。手押しポンプがならべられた。えんえんと燃えあがるすさまじい火の手に向かって、幾本もの水の槍が前後左右からそそぎかけられた。鳶口を持った刺子半纏の消防手が活躍をする。
諸肌ぬぎになった金五郎も、楽屋の荷物運びだしに、加勢をした。
かけつけた子分たちが、玉井組の提灯をふりかざして、飛びまわっている。
彫青を見せないために、夏も着ている長袖のシャツが、なにかに引っかかって破れた。