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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
そこから、らんらんたる眼の龍の顔と、肢につかまれている菊の花とがのぞいていた。
衣裳入れの葛籠に手をかけたとき、金五郎は、背後から、頭へ、鳶口を打ちかけられた。
「あいたッ」
と、思わず、声が出た。
なにかが落ちかかって来たと思ったのである。
鋭い鳶口の先が、頭に突き刺さっていたならば、命があったかどうかわからない。どさくさしている狭い場所であったうえに、相手も興奮していたとみえて、手先が狂ったらしい。しかし、鳶口のついている根元のところが、力まかせに後頭部に当ったので、金五郎はくらくらとした。
瞬間、何者かが攻撃して来たことに気づいて、ふりかえりさま、右手で鳶口の柄をつかんだ。
「誰じゃ?」
火事装束の消防手である。火消し帽で深く頭と顔とを包んでいる。眼だけ出ているが、誰なのかわからない。失敗したと知って、顔を伏せた。
「わたしを殺すより先に、火を消しなさい」
金五郎は、そういうと、握っていた鳶口をぽんと投げかえした。相手は、一散に、火事場の方に走り去った。
頭に手をやってみた。べっとりと、血がついた。
「物騒なことじゃわい」
苦笑が湧いた。そして、破れたシャツの左袖から、龍と花とがのぞいているのに気づくと、あわてて着物を左肌だけ着た。