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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
寿司をにぎっていた源十は、いつになく元気のない金五郎を見て、不審の面持である。
「うん、熱い酒を一杯くれ」
「オヤジ、二階に、森の新さんが来ちょる。上がらんな?」
「また、飲んどるのか。毎晩じゃないか」
「日若座が焼けてから、大層、荒れちょる、無理はないばい。……一人じゃけ、上がんなさい」
「いや、ここで、ええ」
これ以上、みじめな気持になりたくなかった。
五月を半過ぎると、街は、にわかに、色めき立って来た。
街頭のいたるところに、候補者の立看板、ポスター、などが張りだされ、演説会のビラが撒かれた。投票は卅一日、翌六月一日、開票される。その運命の日を目ざして、各派、各候補、それぞれの戦術を展開、日とともに、全市は騒然となり、投票日が近づくにつれて、街には、殺気に似た空気がみなぎって来た。
「早よ、選挙がすんでくれんかなあ」
玉井家では、マンが、毎日、仏頂面で、同じことを呟いている。
「六月一日が来りゃあ、否でも応でもすむたい」
金五郎が、そういって笑うと、
「あたしゃ、逃げだそうごとある。ほんとに選挙はいやらしい。人間の眼が、狐やら、狸やら、猿やら、果ては、狼やら、虎やらの眼に変る。