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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
耳に口をつけて、ささやいた。
会場で、はげしい拍手が起った。
原田雲井が汗をふきながら、演壇から降りて来た。
「玉井さん、敵方の間者が、だいぶん入りこんどるごたるけ、注意したがよか」
そういう原田にうなずいて、演壇に上った。拍手。金五郎は、まず、コップの水を、一杯、飲んだ。いつもとちがって、なんだかすこし落ちつかない。軽い動悸さえ打っている。
若いころ、田舎を飛びだし、北九州に来て、沖仲仕をしながら、石炭によごれて働いていたときは、無学な自分が、洋服を着て、こんな高い演壇に立って、大勢の人の前で、えらそうに演説する羽目に立ちいたることなど、夢想だにしたことはなかった。われながら、変てこで仕方がないのである。それでも、持ちまえの糞度胸で、どうにかお茶をにごして来たのであった。
金五郎は、訥々とした語調で、話しはじめた。しかし、その眼は、ともすると、南階段の円柱のところへ吸いつけられた。そして、とちる。
お京の顔が、見えた。もう一人、その傍に、見たような顔――光丸の顔があった。
マンも、いた。
金五郎は、額に汗がにじんで来た。腋の下からも、冷たい水が湧いて、気持わるく横腹を流れる。