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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

それにしても元日の午前九時十二分に噴水の鶴が唄うと広告し、およそ一万近い悪銭を掻き集めようなどとは余りに向う見ずなやり方だと思われるが、種を明すと実に簡単なトリックなのである。つまり、警視庁も間近い日比谷公園で無届不合法の集会をやれば、否でも警官隊が飛んで来て解散を命ずる。それがこちらのつけ目。逸早く一人前金三円の観覧料を掻集め、ご覧の通り解散を命じられましたから残念ながら「唄う鶴の会」はこれでお終い、とここでツケが入って幕になる寸法だったのである。

幸田と酒月のつもりでは、開会する間もなく解散させられるだろうと安心し切っていたのが、この目算は見事にはずれ、どういう訳か九時十二分になっても警官隊は姿を見せぬ。さすがの幸田と酒月も内心大いに苛立っているうちにとうとう退っ引ならぬ羽目になり、アワヤ袋叩きにされようとした時、不思議にも噴水の鶴は曲節も長閑に歌を唄い出したのである。こんな次第だったからこの時の幸田と酒月のびっくりした顔こそ真に観物だった。どんな痴けな顔をしたか、多分読者諸君もお察し下さるでしょう。いわば悪党に対する天の皮肉といったような工合だったのである。