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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
と口汚くいい放すと、フイと窓の方へ顔を向けてしまう。見ようによれば己れの顔色を見透かされまいとする仕草のようにも受取れるのである。山木の方も気まずそうにうつむいて煙草を喫っているが、その指先が細かく顫えているのはどうしたものであろう。
ちょうどその時窓の外を、有明荘の崖下の素人屋に住んでいる例の花という美しい縫子が通りかかった。連れの赭熊の娘とも別れたと見え、何か俯向き勝ちに歩いて行く。踏絵はそれを見ると慌てたようにテーブルの上の手袋を掴んで立上り、山木に挨拶もなく喫茶店から飛出すと、
「花ちゃん、花ちゃん」
と呼びながら歩道の角で花に追いつき、妙に親しそうにその手を執り、
「花ちゃん、今朝は大変だったんですってねえ」
花は当惑したようにモジモジと手を引きながら、
「ええ」
踏絵はその顔を覗き込むようにして、
「あんた何かくわしいことを知らなくって」
「いいえ」
「まるっきり」
「ええ」
「驚いたでしょう、あんなに仲よしだったんだから」
「ええ」
踏絵は、
「死ぬ者は損をするわねえ」
と独り言のように呟きながら、意味ありげな微笑を浮かべて花の顔を眺めていたが、急に耳の傍へ口を持って行くと、