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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「成程。それで」
「それから急いで崖下へ下りて行って見ると、もう死んでいました。それを担いで部屋まで持って上って」
「お前が?」
「これでもむかしは女角力の前頭までとったんです」
「すると鶴子は」
「えッ、もちろん自殺ですとも」
「どうしてそんな事が判るね」
「だって、あなた、そうじゃありませんか。昨夜は松谷さんのほかは誰一人アパートにはいないんです。それにふだんから死にたい死にたいといって」
「よしよし、満点だ。それで花という縫子は今家にいるだろうか」
「保証えませんねえ、今日はお朔日だから」
「どうも御苦労だった。もっとも今すぐもう一度引っ返してくる」
と言って立上ると、真名古はノロノロと崖下まで下りて行き、空地の片隅に立腐れになったような二階家の格子を引開けて案内をこうと、階段に優しい足音がして、やがて十八九ばかりの、色白な眼のぱっちりとした、大変に美しい娘が障子の陰から顔を出した。娘は真名古の顔を見ると、あら、と叫んで小鳥がとまり木から飛び立つような科で立上った。つい一時間程前、日比谷公園の近くで人雪崩の下敷きになり、アワヤ圧死しようとしたところを真名古に助けられた縫子の花であった。