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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
いうまでもない、さっき真名古と対座していた縫子の花である。
極端な御馳走のすぐあとでこのような美人が出現するなどという至れり尽せりで、誰しも茫然とせぬわけにはゆくまい。加十はほとんど夢幻の体だった。
花は胸に風呂敷包を抱き、緊張のために蒼くなって扉口の傍に立ちながら、
「わたくし、有明荘の下に住まっております縫子の花でございます。御注文の御訪問着を持参いたしましてございます。それから、ちょっと……」
と、たとたどしい。
加十は、は、は、は、と下等な作り笑いをして、
「それは御苦労。ま、すこし遊んでおいでな。僕も少々徒然です。さア、ここへ来てこの椅子にお掛けなさい」
花は古風な擦り足をして加十の傍へ進んで来て、向き合う椅子に掛けると上眼使いでオズオズと加十の顔を眺めていたが、突然椅子から立上って、
「王様、あなたではありません」
と甲高い声で叫び立てた。
ああ、大変なことになった。娘ッ子だと思って油断をしたばっかりに、とうとう化の皮が剥がされてしまった。今までの苦心も大スクープの夢も、一切合財これで御破算になってしまうのであろう。それにしても相手が悪い。