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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
さすがに鉄面皮の加十も狼狽赤面してウロウロと椅子から立上りかけると、花はワッと泣き声をあげながら絨氈の上に坐り込み、
「おゆるし下さいませ。あたし……」
と言って、しどろもどろに前章の一条を物語った末、
「王様だけしかおいでにならないと知ったら、死んだってあんな事を申すのではありませんでした。どうぞ、それだけはお信じ下さいませね」
と、扉口の方へのぼせたような眼ざしを走らせ、
「それにしても、大変なことになりました。こうしているうちにも……。さア、どうぞ早くお逃げあそばして。すみません。すみません」
といって、また泣き崩れてしまった。
花が見た加害者というのは王様と違うというのはすこし受けとれぬ話だが、どうせロマンチックな娘の眼には王様なんぞどんなふうに映るのか知れたもんじゃない。それに逃げてくれというその王様は、事実上どこかへ蒙塵しているのだから、いわば御注文通りなのである。
加十は花の肩に手を置いて、
「花君、いや、これではゴロが悪い、ねえ、お花さん。そんなにあやまらないだっていい、誰にだってやり損いというものはあるのだからね。それに、正直なところ、王様はもう逃げたことになっている。