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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
そこにはそこがあるので決して心配はないのです。さアさア、お立ちなさい。玉繭の着物が台なしになる」
花は胸に手をあて、急にがっかりしてものもいえぬといったふう。加十はいよいよ手に力を入れ、
「それにしても、どうしてこんなに親切にしてくれるのかね。単に好奇心だけかそれとも同情といったようなものですか」
花は羞しそうにチラと上眼を走らせると、蚊の鳴くような声で、
「王様は、いつか、あたしのことを、お鶴さんに、可愛いい娘だとおっしゃったそうですね。……そのためですわ」
というと、額まで赧くなって両手で顔を蔽ってしまった。加十にはこのいい廻しがよく判らない。花は身体を固くして王様が何かいってくれるのを一心に待っているのだが、間抜けな加十は気がつかぬ。花の美しい襟足のあたりを呆然と手を束ねて眺めているのは見るも歯痒い有様。やがて花は顔をあげると涙のいっぱい溜った眼でうらめしそうに加十の面を瞶めながら、
「お鶴さんがお亡くなりになったので、王様はさぞお力落しでいらっしゃいましょうね」
加十は愁傷らしく眉を顰め、
「ああ、力を落しました」
花はさっきのような痙攣ったような顔つきになり、