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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

幸田は乗出して、

「それァいい。何かまたひょんな話があるかも知れねえ。……じゃ、俺は印東の方を引受けるから、お前は悦子に娘ッ子をおびき出させ、そいつを連れて七時までに「中洲」へ来てくれ」

酒月はうっそりと懐手をして何か思案していたが、急に眼差を鋭くして、

「それァそうと、この分じゃどうせ王様も無事じゃないな」

「えッ」

「ひょっとすると、もう殺られてる」

幸田は急き込んで、

「ど、どうして、でも、さっきハッチの野郎が確かめたそうだぜ」

「踏ん込んで行って面でも見たのか」

「電話で聞き合わせると無事にホテルに」

酒月はそっぽを向いて、

「何を馬鹿ナ。王様が無事なら真名古がダイヤモンドの模型などを持って走り廻るわけはないじゃないか」

「うむ」

「だいいち、そんな馬鹿なものを持ち廻るなんて、真名古ともあろうものが少しうろたえすぎると思わねえか。盗まれたというだけならおおびらに品触を廻すだろう。それをせずにソワソワしているところを見ると、何か必ず曰くがあるのだ。……所詮、無事じゃねえの」

幸田は顎を突出して、

「すると、山木か?」

「さあ、な」

「百万からの借金で二進も三進も行かねえとなりゃ、こりゃァやり兼ねないもんでもない」