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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
……あれが王様だったんだア」
酒月も息をひいて、
「すると、騒ぎを引起して置いて、あのドサクサにやった仕事か」
さすがの二悪人も言葉もなく茫然と面を見合わすばかりだったが、やがて酒月は腕を組み、
「野毛山がやったてえのは面白えの。これでまたひと桁はね上って来た。志摩徳の方はそれとして、こいつもついでにモノにするか。道灌山に売り込めァいい顔になるぜ」
幸田は潔く頷いて、
「よかろう。どう転んだって怪我はねえ。いけなきゃア、また、お土砂よ。今度なら先口よりも一段と灼だァ、驚くもんかい。……幸田節三、どうやら有卦に入ったな。じゃ、出かけるか」
といってニヤリと笑った。
笑うのは勝手だがこれは見当違いなんだ。読者諸君は御存知でしょう、池の畔に真名古と並んでアッケラカンと口を開いて突ッ立っていたのは王様ではない。偽皇帝古市加十を脅かした安南皇帝附き諜報部長宋秀陳だったのである。本当の皇帝は午前四時三十分ごろ何者かに誘拐されたとすでに真名古が証明している。すると、野毛山の一派は一体何のために「唄う鶴の噴水」の会場へ騒ぎに来たのだろう。それは賢明なる読者諸君の御推察に任せることとして、見受けるところこの二悪人は、そんなこととは知らずに又しても何か悪企みをするつもりと見えるが、こうなればもう作者の手に負えぬ。