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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
局長と真名古が椅子につく間もなく、林の太い声が拡声器から洩れ出す。
(総監ですか。林です。とてもそっちへ行っている暇がないから電話で話しますが、どうも、とんでもないことになりました。そこにいられるのはあなただけですか)
局長は送話器に飛びついて、
「俺もいる。真名古もいる。何がどうしたてんだ、早くいい給え」
林の話を要約するとこうである。道灌山が野毛山へ乗り込んで行って掛け合うと、安亀が日比谷で騒いだなどというのは初耳だ。身内の恥になることだから人にはいわなかったが、ちょっと胸に落ちないことがあって、今年の夏時分安亀に盃をかえさせ、今じゃ赤の他人なのだからその尻を持込まれても困るといって、急に怪訝な顔をし、そういえば妙な事がある。暮の廿八九日ごろ、見馴れない混血児がやって来て、是非とも殺らして貰いたい人があるという。俺のところへ持ち込む以上は、それを殺らせると充分日本のためになるのだろうなと念を押すと、日本のためにはなりませんという。見損うなといって帰したが、ひょッとすると、殺らしてくれというのは皇帝のことではなかったかという事になり、嘘にもせよそんな計画があるとすれば由々しい問題だから、それで電話を掛けたのだというのだった。