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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
……あんな凄い美しい目を、わちきは生れてから初めて見た。まともに瞶られるとチリ毛だつような気がすることがある。……階下の年寄夫婦の話だと、よくひきつけて大騒ぎをさせるといっていたっけが、気狂いの血統なのかも知れないね。……思いつめたら、何をやり出すかわからないような凄いところがある」
岩井は眼に見えぬほど眉を顰めて、
「なるほど、それはわかったが、花が鶴子を殺ったというのは?」
踏絵は足を踏み伸して、
「ま、その日は「五人坊主」の絵を畳の下へ入れて、なにくわぬ顔をして飛び出したが、それが思いに残ってどうも凄くていけない。それから十五日ほどした朝、花子が出て行った様子だから、素人家の夫帰にいい加減なことをいって二階へ上り、畳をめくって五人坊主を見ると、呪いの灸痕はちょうど臍のところまでいっていて、あとひと焼、心臓に止めを刺せば満願になるようになっている。恐ろしいというよりも、執念深いのに慄え上って、その日もまた這うようにして帰って来たんだ。……その次の晩、今晩はいよいよ満願の日だと思うと、さすがにわちきも落着かない。「五人坊主」の呪いにはずれはないと口伝えにもあるんだが、すると、いよいよ今晩鶴子が呪い殺されるのかと思って、どうにも部屋にいたたまれない。