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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
一方本業の方は名は体を表わすで社運は頽勢を辿る一方、あたかも山の端に臼づく秋の夕陽のごとく、やがてはトップリ暮れようという心細い有様。今日しも同業者の忘年会が東京会館で行われるにつき、古市加十は「夕陽新聞」を代表して出席したが、記者の食卓に古市加十の席が見当らぬ。追々尋ねて行くと、遙かに霞む末席の「銀座だより」という怪しげな花柳新聞の隣に加十の名札が放り出されていた。この人物は度胸もない癖に概して血気に逸る方だから、これを見るとカッと逆上して席札を引っ掴んで上席の方へ進んで行き、朝日新聞の隣の席に座を占めようとしたが、元来朝日の隣に夕陽が割込むなどということは有り得べき筈はない。たちまち駈け寄って来た幹事に猫吊しに吊し上げられ、席札もろとも元の席へ抛げ返された上、小間物屋の席はここだと顎でしゃくられたのである。警視庁の新聞記者室などでも、平素から人交わりをして呉れぬのだから、このくらいの屈辱には馴れ切っている筈の古市加十でも、満座の中でこれほどまでに晴れがましい恥辱を受けてはさすがにもはやいたたまれない。奮然と席を蹴って東京会館を飛出したが、何としても胸のムシャクシャは治まらぬ。