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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
あの鋭すぎる娘なら、それくらいのことはやってのけるだろう」
踏絵は頷いて、
「それはそう。……どう考えても一番やりやすいのは花なんだ。わちきたちが「巴里」で忘年会をして朝まで帰って来ないことも知っているし、鶴子だけが有明荘に残っていることも知っているし、わちきたちがお馬へ年越しの角樽を付け届けしたことも知ってるし、……いずれにせよ、鶴子を殺るなら、三十一日の夜から朝へかけてやるほか、もうその機会がない。二日の夜になると、鶴子は王様と二人で熱海へ行って、ひょっとすると、その足で上海あたりまで王様を送って行くことになるような手はずになっていたが、この辺の事情は、わちきたちのほかは花子だけしか知らないのだが、その適切の日を選んだということだけでも、いよいよ花がやったという疑いが深くなる」
といって、股の奥まで見えそうな、ひどい格恰に足を組みかえると、膝小僧の上に顎をのせ、
「そればかりじゃない、まだこんなことがある。……わちきが今朝「巴里」であんたに別れて虎ノ門を歩いていると、向うからひどく蒼い顔をして花子がやって来るから、だしぬけに声を掛けると、まるで電気にでもかかったように飛び上るんだ。