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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
花子の答えがネガチブであったかポジチブであったか、それは説明する必要はあるまい。総監と対座して長広告をふるった真名古の自信に満ちた態度によっても、その結果が察しられるというものである。
然るに、捜査課長室へ真名古を訪ねて来るべき筈の総監はいつまでたってもやって来ず、その代りに二つの予期せざる報告に接することになった。一つは花子がもたらした待合「中洲」における印東忠介からの又聞き。……三時四十分ごろ、例の山木元吉が屋根伝いに「すず本」を脱け出し、ハッチソンのロード・スタアでいずれかへ立去り、ちょうど五時頃にまた、「すず本」へ戻って来たという話と、もう一つは先刻の「二人の総監」の奇談である。
これは作者も全く予期しなかったことで、いささか唖然とせざるを得ぬのだが、こういう始末になると、真名古の推理なるものに多少の懐疑を感ぜずにはいられなくなるのである。いろいろ思い合わせるところ、真名古のこの到達にはどこか抜けているところがあるように思われてならない。どうも本質的でないのである。現場に総監の指紋でもあったのか。そんなものは何もない。ただ毬栗頭と総監の官服があっただけである。