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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
加十は委細構わず勝手知ったる寝室に踏み通り、寝台の上に鶴子を横たえると漠然と突っ立っている宗皇帝の方へ振り返り、
「水々、それから早く誰かを」
とけたたましい声で急きたてる。
声に応じて駆け出しでもするかと思いのほか、皇帝は髭をしごきながら超然と部屋の中を歩き廻り始めたのである。見ようによれば目前の出来事が何であるかを理解しようと苦心しているのだとも受けとれるが、何にしても奇ッ怪な素振りだというほかはない。
加十は鶴子の帯をゆるめたり胸元をくつろげたりして、常識の及ぶ限りの手を尽しながら、絶えず、阿鶴さん阿鶴さんと連呼するがもとより阿鶴は答えよう筈はない。すでにその義務もないのである。一日でそれと判る死相を卓上燈の淡い光の中へ浮き上らせながら早や一つの現象のように横わっているのである。血のめぐりの悪い加十にも漸くこの事情が呑みこめたと見え、アッケラカンと口を開いてその面を眺めていたが、間もなく嘆息もろともに、
「おお、死んでいる。こりゃこうしては」
とウロウロとその辺をうろたえ廻っていたが、突然身を翻えして寝室を飛出すと階段を駆け降り、入口の奥の小使部屋の扉を割れよとばかりに打叩きながら、