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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
いかにも笑止だといった目付で印東の顔を眺め、
「旦那さんがたは御存知なかろうが、それは熔接でも何でもない。元来そういう上底の瓶なんでさア。……安南の順化に「ボニゾール兄弟会社」という醸造会社がありましてね、そこで「帝王」という三鞭酒を売出していますが、皇室秘蔵の秘宝に型取ってそれと同じようなロゼット型の切子の上底を作ってある。三鞭酒の方はあまり頂けないが、まア、この仕掛が名物になっているようなわけで、安南じゃアだれ一人知らぬ者はない。お望みなら一ダースでも二ダースでも取寄せて差上げますが、そういうガラス罎の底を持って血眼になって走り廻ったってたア、これは全く天下の椿事。実にどうも奇想天外の趣きがありますなア。……さすが洒脱な王様のされることだけあって、この辺の呼吸なんざア巧まずして一篇の諷刺小説になっている。いやどうも……、ヘッ、ヘ、ヘ……」
と、止めどもなく笑い出す。さんざん笑ってから、
「敵を欺くにはまず味方からというのは浪花節の文句にばかりあるんじゃアない。山木が金剛石売却の仲介をしていることはもう皆に勘づかれてしまったんだから、その人物に金剛石を渡したように見せかけておけば、その間だけ本物の方は危険な追及からまぬがれることが出来る。