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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
緻密慎重なあの男のことですから、何かよほどの確信がなければ、そんな突飛なことをする筈がないんだが、そうだとすれば、いよいよもって穏かならんことで……。今度ぐらい困惑したことはありません、弱りました……」
欧亜局長は神経的に細い口髭を捻りながら、
「それだってやってみなけれや判らんさ。一体今どこにいるんです。とにかく呼んで貰おうじゃないか」
と物々しい口調でいう。警保局長はまたしても頭を抱え、
「じつは、まだ申上げませんでしたが、もうひとつ事件が起りまして」
これで、一座また騒然となる。警保局長は憐憫を含むような眼つきで一座を見廻しながら、
「今朝殺害された鶴子の家の通い婆あのとめというのが、駿河台の「お茶松」という賭場の地下道で絞殺されているのを発見されたのです。……真名古は今そこへ検証に行っているので……」
内務大臣が、
「加害者は何者だ。手懸りはついたのか」
と性急に詰め寄るのを、警保局長はマアマアと手でおさえ、
「待って下さい、そう短兵急にいわれても……。そのとめというのは被害者の日常を熟知しているものだから、警視庁でも草の根を分けてその行方を尋ねていたのですが、意外にもこんな始末になって、その方の手懸りがプツリと切れ、捜査方針に一頓坐を来すことになりましたが、幸い追及中の有明荘の住人の一人の村雲笑子という