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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
ところで、真名古が懐中電灯で窓の下の地面を照らして見ると、そこにはただ一つの靴跡もなく、いわんや梯子を立てたらしい跡などもない。
真名古はしばらくの間沈鬱なようすで考え込んでいたが、警官に命じて梯子を持って来させると、それに上って仔細に監房の窓を調べ始める。
別に不思議なんてことはなかった。何者かが屋根伝いにこの監房の上までやって来て、鈎のついたロープを鉄棒にからませ、力任せにひン曲げたのだということがわかる。鉄棒の根元に鈎をひっかけた痕がはッきりと残っている。
その方はそれでいいとして、よく見ると、そこから人が脱け出した形跡がない。鉄棒の隙間はかすかす人が一人すり抜けられるだけの広さがあるのだから、屋根から下されたロープに縋りさえすれば至極容易に脱け出せるのだが、そういう形跡は微塵もないのである。
窓枠の上には長年の塵や埃がかなりの厚さにたまっているが、見ると、それは確固たる不易量の状態を示している。この狭い隙間を無理矢理にすり抜けようとすると、当然この埃の上に何かそれらしい証拠を残さぬということはないのだが、絶対にそういう形跡は見当らない。