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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
蠑が身をよじり合いながらメラメラと匍い廻っている。天井には、大小様々な導管がいくつも通っていて、その隙間から鐘乳石が氷柱のように垂れ下り、ポトポトとそれを滴らしている。
加十はそういう奇妙な環象の中でドッカリと胡坐をかき、手提電燈の光の方へ身体を曲げ、膝の上にザラ紙の原稿紙を押しつけて、せっせと鉛筆を走らしているのである。いかに雑報記者とはいえ、何もこんなところで原稿などを書かなくともよかろう、酔狂にもほどがあると思うんだが、その人相を見ると、なかなかどうして酔狂どころの騒ぎではないらしい。
日ごろ、あまり物事に動じないその加十が、額際にビッショリと冷汗をかき、何やらひどく切迫した面持で鞴のような激しい息遣いをしている。見ると、どうやら呼吸が苦しいのらしく、時々発作的に咽喉元をくつろげるような真似をする。
この場の事情を了解していただくために、少々後戻りしてその後の加十の行動を述べると、夕刻、日比谷公園池畔で秀陳から、今朝この噴水の鶴が安南の国歌を歌ったという話をきくと、元来愚直なだけに小うるさい推理の綾などに迷わされることがなく、安南の皇帝はいま鶴の噴水の下にいると一気に直感し、押太くも一枚の古地図をたよりに、底知れぬ秘密を蔵するこの地下の大迷路へ躍り込み、いわば、ホルベルヒの「ニコラス・グリムの地下