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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

それを今、フイと思い出したのである。

「ねえ、王様お返事を伺いましょう」

「申しましょう。実は、いま金剛石に別れを惜しんでいたのでした。……金剛石はね、危ないと思ったんで、鶴子の家の料理場の壁の中へ塗りこめて置きました。廊下へ出る扉の傍に壁を繕った個所があるでしょう、あの中です……」

声の主はいかにも口惜しそうにチョッチョッと舌打ちして、

「ああ、そんな気がしていた。ほかの場所は残らず探したんだが、あそこだけ見残した。……たしかにあなたの勝ちでしたよ、王様。……それはそうと、それは真実でしょうね。もし行って見てなかったら、すぐ戻って来てあなたを殺しますよ。こっちだって生命がけの仕事なんだから」

「放って置いたって死ぬでしょうよ」

「そうとばかり限らないから殺しに来るんです、……では、さよなら」

「なるべく、「さよなら」であるように祈りますよ」

声はそれで聞こえて来なくなった。

加十は苔の上へドッカリと胡坐をかくと、ギロギロと四方の壁を見廻しながら、

「どうも、こいつはいけない事になった。いよいよ今度こそは俺の最後かナ。……せいぜい骨を折って見たが、この窮境を好転させたのか悪転させたのかわからない。