轻松读懂日语经典作品
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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「……衣裳戸棚、……机、……穴蔵、……料理場……。そうだ。なるほど、あそこだったんだ。……なぜ、気がつかなかったんだろう。あんなたわいもないことになぜ気がつかなかった。……何だかそんな気がしていた。それなのに、あそこだけ見落した。……なぜだろう。これが不思議でたまらない」
そういって、時計を見上げ、
「まだ間に合う! どんなことがあってもやって見せる。どんなことがあッても! あいつなんぞに突き落されるものか。……あいつが勝つか、俺が勝つか!」
まるで人が違ったような荒々しい身振りで立上ると、帽子を取上げて扉の方へ行きかかる。
時計が三時五分前を報じる。
すると、あたかもこれが合図のように、遠い廊下の端から陰々たる足音が起って、それが次第にこっちの方へ近づいて来る。足をすこし引きずるような、そのくせ何か殺気を含んだ、極めて特徴のある足音が、底気味の悪い音を立てながらゆっくりとこちらへやって来る。
警視庁では誰一人この恐ろしげな足音を知らぬものはない。十年も聞き馴れている人間でもこの音を聞くと、誰も彼も何の理由もなく奇妙な恐怖に襲われる。
真名古がやって来たのだ。