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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
闇の中に群像のようにひと塊りになって低く首を垂れているのだった。
やや暫くの後、真名古はウッソリと顔をあげると、群像の一つずつを透しながら、さすがに綿々たる声音で、
「諸君、たいへんに遺憾だが、今日の活劇はこれでお終いだ……ああ、同じ失敗るにしても、こうまで惨めなやられ方をしようとは思わなかった。……大したもんだ。これだけ鮮やかにやッつけられりゃア文句はあるまい。こッちが尻尾を巻いて逃げ出す番だ。……見込通りに成功したら、すこし浮かれてやるつもりで、少しばかりだがコニャックを持って来たんだが、……いや、どうも……。じゃ、諸君、これでお別れする。せめて、こいつで水盃でもして……」
と、ここまでいった時、森閑と静まりかえった遠い廊下の端の方で、何かしら鋭い短い音がした。蝶番の軋るような音である。一同は思わず息を呑んで耳をすましていると、露台の硝子扉をソッと閉める音がし、何者かが廊下の絨毯を踏んでこちらの方へ近づいて来る。足を煽るような、ひどく癖のあるその足音は、つい今しがたきいたばかりの歩調と寸分違わない。
一同は椅子の蔭に身を沈めて玄関の間の方を凝視していると、そこの銀幕の上に、怪しげな幽光に包まれながら卒然と浮かび上って来たのは、猫背の、毬栗頭の総監その人の姿であった。