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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

いや、実際、この百倍の誇張を用いても、この時の真名古の心情を充分に形容することは困難であろう。切磋骨を刻むが如き努力の成果と、金剛不壊の真名古の信念は、こういう恍けた二つの現象によって、今やガラガラと音を立てて崩壊してしまったのである。

図らざりき、ここに、毬栗頭が二つあった。その一つはオールバックの下に鄭重に隠され、仏蘭西巴里はゲラン会社製の「花の夢」というが如き高尚なる香水で扮飾した優なる毬栗頭であって、自からあの突兀たる総監のそれとは全然別な品質であった。

片手に奇抜なる鬘を引っ下げたまま、腑ぬけのように茫乎と空を仰いでいるというのは、事態かくの如きであるならば、真名古ほどの冷理冷血な人間にとってもまた実に止むを得ぬことであったろう。

この時の真名古の心情を察すれば、迂濶なる作者といえども、いささか同情の涙を禁じ得ないのである。最初の計画では、作者は真名古をこんなひどい目に逢わせるつもりはなかった。少なくとも、こんな惨めな失敗をさせようとは思ってもいなかった。然るに、小説中の人物は、相寄り相援けて自からなる飛躍をつづけ、とうとう真名古をこんな羽目に突き入れてしまった。