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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
ように、しきりに首をひねる態だったが、やがて、
「こりゃア古市なんかじゃありません。一体あいつは気の小さな男で、たとえ死んだってこんな横柄な様子で寝ッ転がッているなんてことはありませんでしょう。だいいち、身丈にしたッて、こんな馬鹿べらぼうにひょろ長いんじゃありません。また指にしたって、こんな豪勢もない指輪がはまるようには出来ちゃいないんです。なにもかにも造作が違いまさア。古市が米松なら、こっちは檜といったわけで、ひと眼で人違いだッてえことが判るんです。それがご不審ならひとつひっくり返して裏ッ側の方も調べて見ましょうか」
と、今度はまた威勢がいいばかりで、なんの事やら一向要領を得ない。思うにこの人物は、途方もないダイヤモンドに眼が眩んで、思慮分別まで失ってしまったものと見える。
みんなもっともだ。とりとめのないところを除けば、それぞれ一応の理窟ではあるのだが、なにしろこんな工合では仕様がない。一同の期待にかかわらず、今のところは皇帝説の方が優勢で、いわば、藪を突ついて蛇を出したてい。
これによって、恐るべき国際事件の当の責任者として、いよいよ破局のどんづまりに追いつめられる事になったかと、一同暗雲に胸を閉ざされている時、ここにはからずも救護の天使が現われて、これは皇帝ではない、古市加十だと大きな太鼓判を押し