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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
その中から転び出るように下り立った一人の人物。今しも有楽町の方へ急カーブを切ろうとする先頭のトラックの真ン前に突っ立つと大手を拡げて、
「待て、待て、俺は野毛山の相模寅造だ。生命にかけてたのみてえことがある。ちょっと、車をとめてくれ」
と、大声あげて叫び立てる。
先頭のトラックの中央に凝然と腕組をして突ッ立っているのは、先ほど総監室に現われた前田組の大親分。それをかばうようにそのそばに押並んでいるのは、第六回幸田節三の妾宅の場に立現われた、前田の養子の駒形伝次であった。
二人は素早い眼配せを交しながら、意を通じ合っていたが、何思ったか、前田の大親分は励声一番、
「やい、とめろ。野毛山の親分がいらした」
ギーッとブレーキがかかって、トラックが止る。
前田栄五郎はトラックを下りると、静かに野毛山の方に近づいて行く、その後に油断なくつき従うのは件の伝次。
野毛山の親分というのは年齢のころ六十一二、赭ら顔の薄菊石のある大男で、右の眼の下に三日月の大きな傷痕がある。身の丈は五尺六七寸もあろうか、草相撲の大関といったような頑丈な体をかがめて、丁寧に会釈すると、
「これは道灌山の。