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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

いずれもコール天の半ズボンに長靴下。喧嘩の定法で印絆纒は一切身につけない。白木綿を畳んでキリリと鉢巻をし、小隊別の番号のついた腕章を腕に巻いている。大抵は折襟のシャツに腹掛をしているが、中にはこの寒空に素っ裸で守袋一つひっ背負ったのもいる。竹槍を持ったり長ドスを下げたりしている訳ではないから、知らないものが見たら土工のピクニックかと思ったろう。しかし、この経緯を知っているものが見たら、剽悍さに思わず震え上ったに違いない。事実この六百人のやくざは、身に寸鉄を帯びていぬのであった。

警視庁からの親分の電話でこの喧嘩の趣旨を知り、敵方が機関銃なんていうチャンチャラ可笑しいものを持っていると聞くと、みないい合わしたように一斉に武器を捨ててしまった。丼の匕首までほうり出し、五尺の身体一本でトラックに乗込んだ。二台の機関銃とトムソン・ガンに生身の身体を張り、やくざの意気を示そうというのである。

さて、この蜿蜒たるトラックの列が暁天の霜に、轍をぬらしながら、ちょうど日比谷の交叉点まで来た時、銀座四丁目の方から旋風のように飛んで来た一台の自動車。危うくトラック隊の先頭を切ると、それに寄り添うようにして線路の真ん中にピタリと止まる。