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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

そこで夫人。

かねてお聞及びの、あの、崖の総六と申します親仁が許の不思議な一条。」

これは聞えていたと見え、

「ああ、あの、お茄子の事ですか。」

「その儀、その儀にござりますが、へい、何か見馴れません綺麗な鳥が、種をこぼして行ったと申して、熱海中の吉瑞、神業じゃと、皆が、大抵めでたがりました事でござりますが、さてこうなってみますると、それが早や魔の業で、種を啣えて来ましたのは、定めし怪鳥、鵺じゃろうかに手前どもが存じまする。

一体当地にこの春大地震があると、口を合わせましたようにいい出しましたのも、根はその総六が許の茄子から起りました事。

何しろ、暮の内から御覧の通り、師走の二十日前後に、公園の梅が七分咲きで、日中綿入を襲ねますと、ちと汗が出ますくらいでござりました。

それも当熱海の事でござりますから、さまで不思議とも存じません。畢竟は冬向暖いのを取柄に、湯治にいらっしゃりますわけで、土地の自慢とも存じたでござります。

その内に崖の総六が背戸の畑に、茄子が生えたと申すので、はじめは誰もほんとうにはいたしませなんだが、立派に紫の花が咲いて、霜除に丹精した、御堂のような藁束の中に、早や小指ほどなが一体。