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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

それでも返せッていうから、泣きそうになったんです。

惜むんじゃないんですって。

つい、気がつかずにいたけれど、この紫色の鉛筆は、粉が目に入ると、目が潰れて、見えなくなってしまうんですって。

おもちゃに持たしておくと険呑だから、実は、今夜にも宿で聞いて、私ン許まで取戻しに行こうと思っていた処だったッて、そういいます。

きっと削りませんからッて、私強情を張りましたら、それでは、きっと誰にも見せるなよ。そして二人一所に居る時でなくっては、鉛筆を使ってはならない、きっとだぞッていいましてね。

ちょうど二人ばかりだから、とそれじゃ今つかってみよう、お前は、と私に、今夜はこの伊豆屋へ寝るのかとお聞きでしたわ。

泊るつもりだったんです。

そうすると、手帳へこんやおまえのとこへとまりにゆくよ、と、あの、これを書きましたから、私引手繰って、脱いだ筒袖と前垂とを抱えるか抱えないに、家へ駈け出して帰ったんです。

帳場で、どうした鶴坊ッて、番頭さんがいいましたけれど、そんな事は構わない。

おじいさんに、帰ってそういったら、いそがしがって掃除をして、神様棚へお燈明を上げました。