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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
吐いきをしつつ、立寄って、
(お塩梅はいかがです。)
(こうしていりゃちっとは可い。)
と打棄ったようにいって、
(何か用か。)
(はい、余りけたたましゅうございましたから、お見舞に上りました。この間から風説のございました地震なんでございます、とうとうほんものにして騒ぎまして、ただ今ようよう鎮まりましたのでございます。あの、御存じでございませんので。)
(いいや、ここじゃちっとも知らん。また地震だといって、驚きもせん。たとい地の底に沈んだ処で、まあ、こんなものだろうと思えば、仔細なしじゃ。)
周囲に蠢く患者の光景。
(とても娑婆じゃないからな、どうだ、まるで白い鰻の、のたくッている体裁じゃないか、そういう自分は何か。)
ほとんど失望の声を放って、自から嘲けるがごとくいった、警部長疾篤矣。
夫人はハッと首を垂れた。
時に、
(何か、別に誰も、賊難にあったという話は聞かんか。)
夫人は、思いがけないことだったが、
(いいえ。)とありのままを答えたのである。
(まだ分るまい、蔦、巻紙と硯箱を。)
これへ、と湯殿で命じたので。
(お硯箱、お手紙でも。)
(うむ、もう座敷へ行くのは大儀じゃ、意気地はない。