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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

二

二

裏は藪で、椿の木が多い。木立ちの向うに寺の寺内が見える。

この界隈の屋敷といえば、伊賀者衆の組屋敷だった。

お次はよく、そこの露地を、人目忍んで来る。清麿の家は、破れ垣に囲まれていた。ここも、伊賀者衆が住んでいた古家の跡かも知れなかった。木戸を開けると、空地のように、荒れた庭と鍛冶小屋が東の片隅に見えた。

そっと、台所を覗いて、

『清人さん、いますか』

小声でいう。

『あ、お次さんか。きのう持って来た小鰺は美味かったぜ。師匠も美味いといっていた』

『じゃあ、清麿さんも、喰べてくれましたか。……今日は、お洗濯物が乾いたから、綻びを縫って持って来ました』

『毎度、すまないなあ。お次さんが居てくれるので、まったく、助かるというものだ』

『お師匠様は』

『ぶらっと――出て行ったが、伝馬町の表通りで、会わなかったかい』

『いいえ』

『手紙を書いていたから、飛脚屋へ行って、故郷へ金を送りに行ったのかもしれない。そんな用事だけは、自分でそっと出かけるから』

『お故郷には、残して来たお内儀様と、お小さいのがおひとり居るんですってね』

『おれには、何も話さない。飲まないと、無口な師匠だからなあ』