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にっき
日記
宮本 百合子
09 一九二三年(大正十二年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页
仰向いて見あげて居るうちに、芳崖の悲母観音の画を思い出した。実に忘られない印象を与えた画だ。若しあの画を、一週間に一度ずつ拝されたら、どんなによかろう。心が浄められ、芸術の有難さで鼓舞される。信心深い旧教徒が、聖マリアの偶像を、一週一度拝むことで、生活の力を与えられるように、よい作品は、部門の違いを越えて、我々の心のマナとなる。
四丁目の通り、実に細かな雑多な種類のものを、びっしり眩ゆい飾窓の中に並べた小間物屋の先を、田舎娘のように好奇心に満ち、罪のない心持で眺めて居ると、思いがけず、裏の奥さんに出会った。彼女特有の技巧的な口調で、先日の魚の礼を云われ、思いがけない時と処だったので、妙に顔があつくなるように感じた。彼女も同じ店で買物をして居たと見え、手に小さい水白粉か何かの瓶を持って居る。
先に行ったAに追いつこうとし、屋台店の並んだ歩道を見たら、ちっとも先がよく見えず、彼も何処に居るか、見つからない。ひどく眼が悪くなったと思い、不安な心持に襲われた。
今朝は、珍らしく早く起き、九時にならないうちに机に向った。眼が、いくら力をいれて見ても、眼球が曇ったようでよく視えないのは、なおらない。