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にっき

日記

宮本 百合子

09 一九二三年(大正十二年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,193 字 · 131 页

青空文庫

片隅に腰をかけ、古びた牛皮の古書や、十七世紀時分の大型な、真心の籠った本の姿を見て居ると、

私は書庫の一隅に在って

静かに古人の声を聴く。

窓外には都会のどよめきが波うち

雨は巨大な建築の、鉄の骨格に降りそそぐ

けれども此処ばかりは寂寞

古風な冒険者の物語と

僧院の学徒の額が

やや黄ばみ 薄日に照って

朦朧と私の囲りに甦る

彼等の楯は錆び

黒衣はしみに汚れて居るが

好愛の若々しさはどうだ!

二十五歳、女人の私と手を執り合わせ

なおも真心で、共に語る。

「時間」は

意外なめぐり合わせに眼を瞠り

塵深い書棚の奥に

彼の 白髭を扱くだろう。

と云うような心持に打れた。私にはどうしても、古書愛癖があるらしい。よしわるしなり。帰りに下で雨傘を買って、星による。例によって珈琲と菓子。

夜、A、自分が白鳥先生に願って買ったオレアリウス? の東洋旅行記の方が、ずっと大部の編纂で而もずっと価も廉かったと頻りに悦んで居る。

「僕の本の方が大きいし、沢山ある。うまいのを見つけられたものだ」

同情し、ともに笑い、悦んだ。彼が古本を買うとき、きっと価切るのは、傍で立って居られないような思いを私にさせる。