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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

09 一九四二年(昭和十七年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,952 字 · 130 页

青空文庫

(一)、安井曾太郎筆「十和田湖」(二)の絵はがき)〕

昨日はお手紙ありがとう。あの雷と雨から、本当に朝夕が凌ぎよくなりました。色々の工夫をして暑さを凌いでいらっしゃる様子がこの頃はよくわかります。こちらはひどかった割に順調な恢復だそうですが、三十四時間程全く意識が無かったことは矢っ張りナカナカな打撃で、目や口や皮膚の神経が平常のようになるのは容易な事ではなさそうです。字は一寸も見えません、口も思わぬ処でひっかかって妙な事になります、こう云う障害は人間の体の植物性神経と云うもの(自分の意志のままにならない神経なのだそうです)の疲労で口のきけないのも言葉の記憶が無いのではなく、発音の筋肉をつかさどる神経の故障だそうです。顔付きは、どうやら私らしくなって来たそうです。今は痩せ始めています。レコード的すんなり工合です。眠ることと、食慾は大丈夫ですから御安心下さい。友ちゃんの父さんや弟さんがどうして暮しているか心配なことでしょう。島田へは今日、明日に帰った事をお知らせするつもりでした。輝ちゃんがお婆さんと虹ヶ浜で遊ぶ姿を考えるとナカナカ愉快です。(一)

簀子小屋が松の蔭に立っているでしょうか。