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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

可哀相な老婆は、わしの目を見ると、えたいの知れぬ叫び声を発して、矢庭に逃げ出そうとした。人里離れた森の下暗で、突然白装束の故人に出会ったのだ。幽霊と思うのも無理ではない。

「お豊お待ち、怪しいものではない。わしだよ」

再び声をかけたが、おびえ切ったお豊は身を縮めて、容易に近づこうとはせぬ。

「どなたです。その覆面を取って下さい」

甲高い震え声だ。

「イヤ、これを取らずとも、お前にはわしが誰だか分る筈だ。この目をごらん。この声をお聞き」

わしはジリジリと婆やに近づいて行った。

「イイエ、わたくし、分りません。そんな筈がございません」

お豊はまるで悪夢にうなされている様に、死にもの狂いだ。

「そんな筈がないといっても、こうしてわしがここに立っているのが、何より確な事実ではないか。わしはお前の主人だ。大牟田敏清だ。サア、白状しなさい。お前はここへ何をしに来たのだ」

お豊はまるで死人の様に青ざめて、石になったかと息さえもせぬ。

「白状しないのだね。よろしい。それではそこを動かないで、わしのすることを見ているのだ。いいかね、わしが何をするか、よく見ているのだよ」

わしは別荘の物置小屋へ走って行って、一挺の鍬を持ち出して来た。