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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

打ち破って、脱走しようか」といいだしたが、金五郎は、「そんなことしたら、他人に迷惑かける」といって、なだめた。

三度々々の食事は、マンが、差し入れした。

檻の中の囚人どもは、おかずの贅沢ばかりをいい、ときには、酒も注文した。ちびちびやりながら、中で、一日、将棋をさしている。

「おマンさん、今夜は、すき焼を頼む」

などと、いう。

マンは、笑って、七輪やら、鍋やら、砂糖、醤油、団扇、牛肉、葱、豆腐――すき焼に必要なものを入れてやる。

「まるで、旦那じゃな」

気楽な居食いの生活で、箱の中の二人は、日ごとに、まるまると、肥えた。

しかし、旦那の豪奢とはやはり違っていた。雨の日には、天井から雫がたれるし、風の日には、家全体が吹っ飛びそうに、ゆれ動く。床のすぐ下で、コオロギや地虫が鳴く。

夜は、もう寒い。ランプを消して寝ると、野犬が箱のまわりをうろつき、しきりに、遠吠をした。月の光も、冷たい。深夜、眼がさめると、コレラで死んだ幽霊たちが、あたりを徘徊しているように、不気味だった。

「花をあげましょ」

或る日、一升徳利を花瓶がわりにして、大束の菊の花を、マンが、小窓からさし入れた。