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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
「迷惑ですとも」
「困るかね?」
「困りますよ」
「そうか。それは、すまんじゃった。わたしはあんたが好きじゃし、ひょっとしたら、あんたも、わたしに好意を持ってくれやせんじゃろかと、思うたもんじゃけ、うっかりしたこと、いうた。勘弁しておくれ。もう、いわん。……わたしに、話があるというたのは、このことな?」
「そうです」
「そんなら、今いうたとおりじゃ。……さよなら」
金五郎は、くるりと廻ると、すたすたと、飯代部屋の方へ、去って行った。
その後姿を眺めるマンの眼に、不思議な狼狽の光がただよっていた。
夕食時間なので、飯代部屋も、夫婦長屋も、これから食事がはじまるところである。マンの黒眼勝ちの瞳には、珍しく、ブラジルの天地を望む強い光より、家庭を恋している、柔い光がにじみ出ていた。
また、数日が、過ぎた。
金五郎は、どうしても、「ノロ甚」にかなわないので、躍起になって、連日、挑戦した。しかし、いつも、鴨になる。今日も、昼休みに、将棋をさしていると、「ノロ甚」が、いつもとすこし違う緊張の面持で、
「金さん」
「あン?」
と、顔をあげた。
「うちの親方が、大層、あんたに、機嫌が悪いそうなで」