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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

金五郎は、盃を手にしながら、あらためて、一つの決意に、眼を光らせる。

(どんな世界でも、拒否してはならぬ。ぶっつかり、これを乗り越えねばならぬ)

ただ、前進あるのみだ、と思う。

郷里を飛びだしてから、転々した。門司に来て、浜尾組、下関にわたって、山下組、今は、戸畑の永田組――新しい世界の展開につれて、新しい知人も出来る。それらは、すべて、龍となって昇天する道程で、踏破して行く山であり、峠であり、峯々だ。

(引きかえすな。ただ、前へ)

金五郎は、眉をあげる。

列車は、博多をすぎて、二日市駅着。下車した一行は、なお止まぬ雨のなかを、鉄道馬車で、武蔵温泉へ向かった。

筑紫館に、宿を取った。

浴衣に着かえ、まず湯に入ったりしているうちに、黄昏れて来たが、雨は止まない。街には、柳の並木が風にゆれ、遠く、太宰府の背後に聳える宝満山の暗いいただきは、低い雲ととけあっている。

「みんな、自由行動にしよう」

遠足団長格の田中光徳親分が、いう。

いわれるまでもなく、はじめから、勝手な行動を取っている腕白連中は、夜に入ると、それぞれ、自然に、「飲む」「打つ」「買う」の三班に分れた。