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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
銀杏返しに、黒襟、面長の顔――正面を向いていて、見誤まりはなかった。二年前、道後で、一度逢ったきりなのに、必要に応じて、その全容が再現される、金五郎にとって、不可解な存在の女。彦島で、二度も横顔のよく似た女に、はっと、鼓動を感じたが、今度は、正真正銘、ほんものであった。
先方は、そんな金五郎に、まだ、気づかないらしい。中膝になって、三本指をつき、
「二階の「菊の間」でございます」
と、丸味のある声でいう。
「玉井、行ってみるか」
そういって立った大庭春吉の声に、金五郎も、ふらふらと、立ちあがった。
廊下づたいに行った。夜の庭では、竹林が雨にたたかれて鳴っている。ホオズキを噛むような声で、鳴いている蛙。泉水の音。
曲り角の便所のところに来ると、大庭春吉は、小便をもよおしていたとみえて、「ちょっと」といって、引戸をあけて入った。
それを待つ姿勢になったとき、先に立っていた案内の女と、金五郎との視線が合った。
「お久しゅうござす」
その金五郎の言葉に、銀杏返しの女は、きょとんとした顔つきで、若い男の顔を見た。
暗い電燈が、ついている。
「お忘れですか。いつぞや、道後温泉の「四国屋」